「アンリエッタと二人だけの個人授業」 第一話 才人は机にじっと座っていた。目の前にあるのは鉛筆と書き取り用の紙だけだ。 すぐ横ではアンリエッタが微笑んでいる。しかし目は笑っていない。 机にじっと座っているのが嫌いな才人は苦笑いを浮かべていた。 なんでこうなったんだろう。才人は考えていた。 話しは30分ほど前に逆のぼる。 いつものようにルイズの部屋の掃除をしていた才人は休憩を取っていた。特にすることもないのでルイズのベッドに座って足を組んでいた。 「あぁ、ヒマだなぁ」 そんなことを考えながら部屋を見渡すと本棚が目に入った。 割と勉強家なルイズの本棚だ。 たくさんの本の中から適当に一冊を手にとってパラパラとめくっていた。 「俺、こっちの文字読めねーんだよな・・・」 本の中は文字だけでなく、図や絵もあった。 絵を見ると、メイジが兵隊らしき人物と戦っているようだった。 たぶん魔法の実践的な使用方法や敵との位置を考えて行動する戦術の本なのだろう。 そんなふうにとっかえひっかえ本を読んでいると、部屋の扉が開いた。 「あっついわね〜。ちょっと才人、ぼさっとしてないで冷たい飲み物持ってきなさいよ」 そういいながら入ってきたルイズは才人をみて立ち止まった。 「なにしてんの?」 「いや、なんかおもしろい本はないかなぁって探してたんだ」 「あんた、こっちの文字読めないんでしょ?」 「ああ、だけど最近本読んでないなぁって思って。元の世界でもあんまり読まなかったがな。」 「ふーん。だけど少しくらいは読めるようになりなさいよ。全く読めなかったら困るでしょ。」 「じゃあ、教えてくれよ」 「教えてもいいんだけど、姫様に呼ばれて王宮に行かなきゃならないの。だから後で。」 「わかった。じゃ、姫様のとこに行くとしますか。」 王宮につくとアンリエッタの部屋に案内された二人はノックして部屋に入った。 「まあ、よく来てくれました。ルイズ、使い魔さん。ゆっくり座ってくださいな。」 アンリエッタの言う通り二人は席に座った。するとアンリエッタは手紙を差し出してきた。 「今回呼んだのは、この手紙のことなの。」 ルイズは受け取るとその手紙を読み始めた。才人は呟いた。 「やっぱりこっちの文字も勉強しないとなぁ。」 「あら? 使い魔さんはこの世界の文字が読めないの?」 アンリエッタが言った。 「ええ、なぜか話はできるんですけど文字は読めなくて。」 「それは大変だわ。私は手紙をよく使うから、ルイズが忙しいときは使い魔さんが手紙を受け取ることもあるだろうし・・・」 アンリエッタは少し考えるようなしぐさをして、言った。 「では、私と少しお勉強しましょうか。少し勉強すればすぐ分かるようになるわ。」 「えっ・・・」 ルイズと才人は同時にアンリエッタを見た。アンリエッタは微笑んでいる。 「ダメです! 姫様に教えていただくなんてこのバカ犬にはもったいのうございます!」 ルイズは少し興奮した声で言った。 「いいのよルイズ。その手紙は長いから読むには時間がかかるだろうし、準備も要るわ。その間にでも。」 「で、でも!」 「大丈夫よ。今日は時間もありますし、文字が読めないと困ることもありましょう。あなたはその任務の準備を確実にお願いしますわ。少し難しいことになりそうだから」 「は、はい・・・」 アンリエッタにそう言われると逆らえないルイズであった。 「出発は明朝に。使い魔さんには王宮に泊まってもらいましょう。」 「な・・・」 ルイズは驚いたようであった。 「こここ、この使い魔が姫様と二人っきり!? いけません姫様、危険ですわ!」 才人は少しむっとした。 「どういうことだよそれは」 「どうもこうもないわ。あんたみたいな変態を姫様と二人きりにできるわけないでしょう!!」 ルイズは怒鳴った。 「あら、そんなこと言っちゃダメよルイズ。やさしい使い魔さんなんだから。あなたが一番知ってるでしょう?」 「私が一番知っておりますわ! こいつは危険です!」 「まぁ、ルイズあなたこの使い魔さんに何かされたの?」 「えっ、そ、そんなことあるわけないですわ姫様! そそ、そんなこと!」 ルイズは少し頬を染めて言った。 「ではいいではありませんか。 使い魔さん、こちらにいらしてください。」 才人は少し照れながらアンリエッタについて行こうとした。ルイズに袖を引っ張られる。 「あんた、姫様に何かしたら、ただじゃ済まさないわよ。」 ルイズは才人を睨んだ。 「分かってるって。心配性だなぁ。」 「ホントにホントに許さないんだからね。」 少し俯きながらルイズは言った。 「はいはい」 「何よその返事は!」 そう言うと才人はアンリエッタの後ろについて部屋を出た。 「何よあのバカ犬・・・」 一人残された部屋の中でルイズは呟いた。 言葉は部屋の中に静かに吸い込まれていった。