続・惚れ薬編 第一話 放課後、特にすることもないので、女子寮の中を才人は歩いていた。キョロキョロと何かおもしろいことはないか探していたのだった。才人の好奇心振りが発揮されていた。2,3メイル歩いたところで才人は立ち止まった。なにやら挙動不審なギーシュを見つけた。 「ギーシュ、何してんだそんなところで?」 「うおっ! 何だ君か。驚かさないでくれたまえ」 よく見るとギーシュはズタ袋を持っている。 「なんか買ってきたのか。モンモンの部屋の前で何やってたんだ?」 「う、麗しいモンモランシーにあ、会いにいくところだ。こ、これから甘いひと時を過ごすのさ。ハハハ・・・」 ギーシュは目を逸らして声を震わせながら言った。 「声、震えてるぞ。何隠してんだ?」 「き、君には関係のないことだ!」 そうこう話していると目の前の扉が開いた。 「ギーシュ、いつまで買い物に時間かけてるのよ! 早くしないと見つかっちゃうじゃない!」 モンモランシーが怒鳴った。 「また惚れ薬でも作ってるのか? 」 あきれた声で才人が言った。一瞬体の動きが止まる。才人の姿を見て驚いたようだ。 「バカ!こんなとこで・・・。とにかく入りなさい!」 ギーシュと才人は部屋に連れ込まれた。 モンモランシーはイスに座ると話し出した。 「惚れ薬の固形化実験をしてたのよ。この前みたいな液状より持ち運びやすいわ」 「おいおい、ルイズに見つかったら殺されるぞ。・・・主に俺が」 「見つかってもあんたを身代わりにするからいいわ」 「だから才人を連れ込んだのか・・・」 ギーシュがうんうんと頷いていた。 「さあ、ギーシュ。買ってきた足りない材料をかして。あとはそれだけで完成よ」 モンモランシーはギーシュがズタ袋を渡すとすぐに材料を取り出した。 「これを軽くすり潰して混ぜれば・・・」 才人とギーシュはそんなモンモランシーをじっと見ていた。 「よしっ。完成よ。さすが私ね」 モンモランシーはアメ玉くらいの大きさの惚れ薬を見せてきた。 「さすがだよモンモランシー。やはり君は天才だよ。ああ、なんて素敵なんだ」 などとやっていると、部屋の扉が勢いよく開けられた。 ルイズであった。 「ちょっと。才人来てない? 才人ったら勝手にぶらぶらと・・・」 ルイズは部屋の中に才人がいるのを見ると怒鳴った。 「あんた何やってんのよ! ご主人さまの側にいなきゃダメでしょうが!」 「い、いやモンモンがなんか作るって言うから。つーか連れ込まれて・・・」 ルイズの顔が赤く染まった。なにかを思い出したようだ。 「モンモランシー。また惚れ薬とか作ってるんじゃないでしょうね?」 モンモランシーは体をビクッとさせた。 「あはは・・・。そのまさか。便利に固形にしようと思って・・・」 「出しなさい。そんなもの危険物、私が処分するわ!」 モンモランシーが最後まで言う前に、ルイズが遮る。 「いやよ。ものすごくお金がかかってるんだから」 「じゃあ、力ずくで奪うわ」 ルイズはモンモランシーに飛び掛った。 「ギーシュ!」 モンモランシーは惚れ薬をギーシュに投げた。ギーシュは、ルイズが恐ろしい形相で向かってくるのを見て、才人に投げた。 「ほい、才人!」 才人は受け取ると困惑した。どうすればいいのだろうか。これはモンモランシーのものである。だが、モンモランシーに渡すと後でルイズにおもいきり蹴られるだろう。蹴りですめばよい。"エクスプロージョン"をかまされてはたまらない。さてどうしたものかと考えていると、才人の前の空間が爆発した。エクスプロージョンである。才人は飛ばされ、倒れこんだ。 「迷ってんじゃないわよ!」 ルイズが怒鳴った。顔には怒りが満ち溢れている。 その爆発で転がった惚れ薬をモンモランシーが拾おうとすると、ルイズが足で弾く。 「そう簡単には渡さないわ」 ルイズがそういった瞬間、惚れ薬は倒れた才人の口の中に飛び込んだ。 あ、という暇もなく才人は無意識に惚れ薬をなめている。ルイズははっと気づく。 「吐き出しなさぁぁぁい!!」 ルイズは叫ぶと、才人に飛び掛った。その衝撃で才人は後頭部を打ち、気を失った。 ルイズは才人の上にのしかかる。両手で才人の顔を自分に向けて口から惚れ薬を取ろうとすると、誰かに突き飛ばされた。 「さ、才人さんに何するんですか!」 シエスタであった。 「ミスヴァリールの叫び声を聞いて部屋に入ってみれば、才人さんにのしかかっていったい何を・・・」 シエスタがルイズを睨みつける。 「才人さん、大丈夫ですか。もう変なことはされませんよ」 シエスタがそう言うと才人が目を覚ました。 「うーん・・・。あれ、シエスタ・・・?」 瞬間才人はぼーっとする。少しでいいから眺めていたい。そんな思いに駆られた。 シエスタを見つめている才人を見て、ルイズはいぶかしむ。ルイズの手には惚れ薬があった。シエスタに突き飛ばされながらも才人の口から奪っていたのであった。それなのにこの才人の表情。ルイズは苛立ちながら、シエスタの東條に口をあけてぽかんとしているモンモランシーに尋ねた。 「ど、どうやら口の中で少し溶けちゃったみたいね。溶けたのはほんの少しなんだろうけど、なかなかの効果ね。私ってすごい」 などといいながらうんうん頷いている。 「そんなのどうでもいいのよ! 解除薬は?さっさと解除しなさい!」 ルイズが怒鳴った。その声には焦りの色が含まれている。 「それがさっき精霊の涙を使い切っちゃって・・・」 モンモランシーは悪びれた様子がない。そんな彼女を見てルイズが眉を上げる。 「まあ、溶けたのは少量だし。どんなに効果が続いてもせいぜい2、3日。しかも不安定。だから突然効果が薄くなったり、また惚れたりもするでしょうね」 「じゃあ精霊の涙買ってきなさい! 今すぐ!」 「無理よ。水の精霊は前の事件でさらに人間に会わなくなってるでしょうし。精霊の涙を取りに行って解除薬作ってる間に惚れ薬の効果は切れてるわ。無駄足よ。」 正論だ。でも才人のシエスタに対する態度が気に入らない。なんでこんな素敵な人に気づかなかったんだ、みたいな顔をしている。腹立つ、腹立つ、腹立つ!そんな目で私を見たことないくせにキーッ!などと考えていると。 「才人さんどうしたんですか? 顔赤いですよ? 熱でもあるんでしょうか」 シエスタは才人の額と自分の額を合わせる。 「熱はないようですね・・・」 シエスタはそう言ったが才人はますます真っ赤になる。 くっ。このままじゃいけない。何がいけないのか分からないけど本能がダメだと告げている気がする。そう思ったルイズは才人を引きずって部屋を出た。 「ルイズっ。何すんだよ。おい」 才人は病気なのだ。惚れ薬のせいでおかしくなっているのだ。だから私が救ってやるのだ。私はこいつのご主人さまよ。そうするのが義務よ。べ、別にこいつがあのメイドを顔赤くして見てるのがイヤってわけじゃなくてああやっぱりダメご主人さま見てなきゃダメ別にやきもちなんかじゃなくてその・・・。 などと考えながらルイズは自分の部屋に駆け込んだ。才人は文句を言っていたがルイズの耳には入らなかった。 「いい? あんたは惚れ薬でおかしくなってるの。だからあのメイドのとこに行ったりしたらだめよ。ご飯抜きよ。さらにおしおきの計よ」 「なんでだよ。別に俺がどこ行こうが勝手じゃないか」 「わ、私はね公爵家の三女なの。そ、その使い魔がメイドにベタ惚れしてるなんて恥もいいとこなの」 ルイズは誤魔化すように言った。 「そんなの知らないね。だいたい前言ってたじゃないか。キュルケ以外ならオッケーだって」 ルイズは困ったような顔を見せながら言った。 「そ、それは前よ。前は前。今は今よ。ご主人さまの命令は変わるものよ。だ、だからダメなの」 「でも・・・」 「うるさいわね。あ、ああ、あんたは私だけ見てればいいの。さ、寝るわよ」 ルイズはベッドに潜り込む。そしてぱんぱんとベッドをたたく。頬が染まった顔を見せないようにしながら。 「ほ、ほら。こっち来なさい。枕の代わりよ」 才人はむっとした顔をしていたが、あきらめたのかおとなしくベッドに入ってくる。ルイズは才人の肩にちょこんと頭を乗せる。こうしていると安心する。ルイズはランプを消した。月明かりがやわらかく二人を照らす。 絶対あのメイドなんかには渡さないんだから。ルイズは才人が眠ってもずっと才人を見つめていた。